婚活が軸になった小説だということで読んでみました。
婚活というか結婚という行動に関わる様々な人の傲慢さを炙り出していく人物品評会的な側面が強い作品。あとは、主題であるところの良い子の女性の傲慢さ善良さ生きづらさを描いている。このカップルがどうやって過ごしていたのか断片でしか描かれていないので結末は説得力がなく尻切れトンボな印象を受ける。そこはこの物語で語られる性格から察してくれとか、あくまで愛の一例ということなのだろうが。
何が良くて何が悪いのか、何が傲慢で何が善良なのか、決めつけている印象はなくみんなそれぞれの人生を一生懸命に生きていて、それはどれも尊いものだと言っているようにみえる。とはいえ、勇気や行動、失敗は推奨していると思うけれど。
人物品評会的な側面が一番気になるところなので各人物ごとに感想をまとめてみる。
ちなみに「真実(しんじつ)」とルビが振られる珍しい作品。ヒロインの名前が「真実(まみ)」だからだけれど。
〇登場人物
西澤架
坂庭真実
岩間希美(真実の姉、既婚)
坂庭陽子(真実の母、既婚)
三井亜優子(架の忘れられない元カノ、既婚)
小野里(相談所の奥様、既婚)
金居智之と妻(真実のお見合い相手1人目、既婚)
有坂恵(真実の群馬県庁時代の同僚、中学の同級生、既婚)
花垣学(真実のお見合い相手2人目、未婚)
ジャネット(真実の東京での派遣先である英会話教室での同僚)
美奈子・梓(架の女友達)
谷川ヨシノ(真実のボランティア先の担当者、シングルマザー)
その他
大原夫婦(架の親友)
坂庭正治(真実の父)
架の母
泉(真実の同級生、キャリアウーマン、既婚)
樫澤耕太郎(ボランティア先の写真館の若主人)
早苗・力親子(ボランティアの同僚、逃げて来た)
高橋(地図作りの先輩、男性)
石母田(石巻の神社のおばあさん)
〇登場人物ごとの感想
西澤架
モテモテだったが結婚を我がこととして考えられずに婚期を逃して婚活する。しかしピンとくる女性がおらず、その中で第二候補(第一候補はシングルマザー)だった真実と2年付き合い婚約。失踪した真実を探す中で真実への理解と、自分の傲慢さを理解して結婚の決意を強めることになる。途中何度か指摘されるが善良な人間。真実も善良な人間だが、モテと非モテの対比になっている。そこは男女と親、住んでいる場所の影響が強いのだろう。善良であるがゆえに不器用で鈍感なところがある。結婚相手としては申し分ない感じがする。
ピンとくるという感覚は、自分自身につけた値札と同額のお相手が目の前に現れた時に感じる感覚だという話があったが、少なくとも失踪前だと真実は一段劣る印象を受ける。失踪後は100点になったんじゃなかろうか。
坂庭真実
関係者に話を聞けば聞くほど善良ではあるが、傲慢で精神的に幼い。結婚相手としてはかなり微妙だなぁと。典型的な善良な婚活女子という印象。失踪以降は成長した気がする。ただ、作品自体の話だが、ボランティア活動で何でここまで成長するのか、どうもうさん臭さがある。群馬県庁の臨時職員から派遣で英語教室の事務になった。大学は女子大で、世間知らずで従順。両親が世間知らずで子どものことを考えることが出来ない人だったのが一番の不幸。ただ姉は同じ轍を踏んでいないわけで、真実本人の性格も関係しているのだろう。現実では失踪やストーカー騒動など起こせないので、こんな感じで成長はしないのだろうなと。
良い夫婦になりそうな感じで描かれているけれど、実際は数か月でこんなに成長出来るだろうか、身に染み付いた性質がそんなに変わったら世話がない。
ただし、彼女が2年間していたのは恋愛で間違いないと思った。
岩間希美(真実の姉、既婚)
狭い社会から外に出た女性かつ身内として登場。真実を突き放す感じがある。
坂庭陽子(真実の母、既婚)
狭い社会の中だけで生きていて、自分の都合以外は考えない。いくつになっても真実を子どもとして扱う母。
三井亜優子(架の忘れられない元カノ、既婚)
話が合って、活動的でどんな人にも好かれる100点の女性。別れを切り出した時に架から別れるのは嫌だ結婚して欲しいと言われて遅いと言ったのは、そんな気持ちで結婚しても歪みが出てきてうまくいかないということなのだろう。そういう鈍感ゆえに歪みを全部引き受けた架と対極にある。なぜ若い年齢で結婚を意識して将来を考えることが出来たのか、両親や活動的なことが影響していると示唆されている。
小野里(相談所の奥様、既婚)
作者の代理として婚活を俯瞰して眺める役目に感じた。名言として引用されるのは大体がこの人の言葉か。
金居智之と妻(真実のお見合い相手1人目、既婚)
人によっては最良の夫になるが、真実は好きになれなかった男性。婚活でよくある男性の一例。善良に善良を重ね、無神経だが傲慢ではない。イケメンではなく、洗練もされていない。妻もまた婚活で出会う代表的な女性。積極的。ただし善良かというとそうでもない。
有坂恵(真実の群馬県庁時代の同僚、中学の同級生、既婚)
真実と途中まで同じ道をあゆんでいた、あったかもしれない将来の一例みたいな女性。合コンなどに参加して機会を作り早くに結婚する。ただし、真実が逃げた狭い世界に留まった女性。真実の姉と役割が被るところがあるが、第三者という関係性の違いが必要だったのだろう。
花垣学(真実のお見合い相手2人目、未婚)
我欲がないためにボンヤリしていて口数が極端に少なくコミュニケーション能力が低い。そのため癖が強く、古い車に乗り、言わなくて良いことを言ってしまう。婚活ではモテないタイプで、その印象を深めるため、1人目との対比のためにイケメンになったのだろう。善良ではあるが、結婚したらすごく苦労するだろうなと思う。
ジャネット(真実の東京での派遣先である英会話教室での同僚)
バイリンガルで努力家。真実の自慢の友人。善良で情に篤い。失踪する時に彼女を頼れなかった点、美奈子たちに馬鹿にされた時の心の支えになるというのが役回りで彼女自体にはあまり色はない。真実の歪みが現れている。
美奈子・梓など(架の女友達たち)
善良ではない女性、行動して失敗を重ねて経験を積むことで物事が分かっている女性。真実との対比。既婚の人もいるし未婚の人もいる。架のことが好きな人もいる。夫側の関係女性として出さないわけにはいかない登場人物。なぜ彼女たちは架の友人にはなれても結婚相手にはなれなかったのか。相性だったのだろうが、その辺りを考えるのは面白い
谷川ヨシノ(真実のボランティア先の担当者、シングルマザー)
女性のキャリアモデルの第三極。キャリアウーマンなのだがキラキラしているわけではなく実直で地に足を付けている。真実の人生の道しるべ的な役回りかなと。
その他
大原夫婦(架の親友)
架の上位互換。アドバイザー、その他友人との橋渡し的な役割。夫婦関係などは深い描写や考察はなかったと思う。
坂庭正治(真実の父)
昔ながらの亭主関白で無口な父。娘にはあまり影響力がないものとして描かれているように感じた。
架の母
同居をせまる母という役割。息子側には何も言わずに、嫁側にのみ伝えるという狡猾さ、それを自然にやっているのか息子には知られないように画策しているのか、どちらにしても同居は悪という作者や世間の前提のもとに言わされているのだろう。真実の母ほどではないが、これもまた母の一例であり、真実の善良さの一例。
泉(真実の同級生、キャリアウーマン、既婚)
大学の学部まで知らない。ということが女性の自立やその人への興味のなさであることを語るための舞台装置。潜在的には真実の理想の女性像?
樫澤耕太郎(ボランティア先の写真館の若主人)
ボランティア関係でのモデルの一例かなと。
早苗・力親子(ボランティアの同僚、逃げて来た)
別作品の主人公?
高橋(地図作りの先輩、男性)
真実をデートに誘う。恋愛について改めて考えさせられる。
石母田(石巻の神社のおばあさん)
婚活外、恋愛当事者ではない一般人。客観的に物事を見て驚かせる役回り。婚活という名前を外して考えると、この物語は大恋愛なのではないかという。婚活経験者からすると自然ではない出会いで好きから始まるわけではなく打算のある関係だから恋愛とは違うと思ってしまうかもしれないが、実際にどこが違うのか?同じではないかと問いかける。